天部二十八部衆と風神・雷神像  悪魔のチカラ身に着けた正義のヒーロー

イメージされる無限の観音像 三十三間堂

文永3(1266)年の再建から750年、その姿を保ち続ける奇跡の宗教建築。

お堂に安置された千手観音によって、蓮華王院・三十三間堂は守られ続けてきたのです。

中央に鎮座する丈六の千十観音座像を本尊とし、その脇侍の左右に、各五百体の等身大の千手観音立像が並びます。

脇侍が並ぶそのさまは、百体づつ格十段にひな壇のように配列されているんですね。

それはまるで、仏界の上空から下界へと続く無数の階段です。

舞台劇の終わりのように百体の千手観音が一列となって、前列から一段一段と、ゆっくりと降臨されるかのように目に映ります。

このように、千手観音の大群団が仏界から舞い降りて来たかのような光景なのですが、その数はそこに実在する千体だけではなく、何万・何億という数えきれない観音さまがイメージされる仕掛けになっているんですね。

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その前方を守護するのは、天部二十八部衆と風神・雷神像

その役割や姿から仏教の尊像というのは、如来・菩薩・明王・天部に分けられています。

仏教以外の異教の神々、つまり敵方だった悪魔神が、仏教を守護する側に変身したのが天部です。

四天王や梵天・帝釈天・金剛力士などが天部ですが、まさに、「悪魔のチカラ身に着けた正義のヒーロー」となったのです。

その神々は独特の雰囲気をもった個性的な姿をしていて、その表情も、怒りに満ちた顔や、すまし顔、おどけた顔など豊かな表現で、見ている私たちを飽きさせません。

ガイドブックに説明されている「一千一体の観音像のなかに、あなたにそっくりの顔をした観音さまが必ずいます」という言葉に、三十三間堂を初めて訪れるツーリストは胸を躍らせます。

でも実際は、観音さま一つひとつの表情を見分けるのは至難の業であり、正直、どの表情も同じに見えてしまうのです。

だから、本当は観音さまではなくて、天部二十八部衆のなかに、あなたの本当の顔を映し出した一体が必ずあるのかも知れませんね。

あなたのその本当の顔は帝釈天かもしれないし、毘沙門天の憤怒の表情が、内に秘められたあなたの本性だったとしたら、それはそれで興味深いものがあります。

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空はひび割れ 海は枯れ果てる

地球には、背負わされた様々な掟があるといいます。

その掟の代表的な一つが天候というものなのですが、この自然現象をいとも簡単に操り、そして崩してしまうのが魔神という存在です。

その魔神のなかでも、突如として姿を現し、閃光を放ちながら大音響ともに荒れ狂うもっとも狂暴なものがいます。

人々の糧である食物をことごとく壊滅させ、命でさえも一瞬で呑み込んでしまう風神・雷神です。

古来から人々はこの両神を恐れてきました。この両魔神の心を鎮魂するために、人々は祈り拝み続けてきたのです。

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そしてある時、天部二十八部衆たちは人々を救うために、貴様らもう許さんぞと、総力をあげて暴れ狂う風神・雷神に攻撃を仕掛けました。

一丸となった二十八部衆の凄まじい神力に叩かれ、ついに降伏した風神・雷神は、仏教の守護神へと変身することになるのです。

雨期になっても降らず、何ヵ月も日照りに苦しむ世界に、人々の味方となった雷神が遥かかなたの空から雷鳴と黒雲を呼び寄せます。

同じように、風神が呼ぶときには恐ろしい台風も、巻きおこる風とともに恵の水を運び、雨神を呼びよせて大衆を救います。

風神・雷神は仏教の神々には加えられていませんが、二十八部衆の隠れた家来として前列の左右両端に分かれ、ともに千手観音を750年の長い間、守護し続けているのです。

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魂がそそがれた傑作

風神・雷神像ともに檜材の寄木造で、眼には水晶を凸レンズ状に磨きあげた玉眼をはめています。

彫刻の過程が終わったところで表面に麻布を貼り、黒漆をかなり厚く塗って下地を固めて、その上から白地を塗り、彩色して仕上げてあります。

二体をよく観察すると、その色彩が所々に残っているのを確認できます。体は風神が緑青で雷神は朱塗りです。

頭髪は茶のかかった赤で、毛筋は金箔を細く切った截金で表現され、玉眼の内側は瞳の黒を中心に朱・白緑・緑青・金箔などで色づけされていました。

ただ現在は、肉眼で見てもその姿を捉えることはできません。ゴツゴツとした、まるで石像のように見えるんですね。

鎌倉時代中期の代表的な仏師である湛慶の魂がそそがれたこの仏像を見た俵屋宗達は、これに触発されて国宝の風神・雷神図屏風を描きました。

時間に少し余裕があれば、ここまできたのだからついでにと、三十三間堂の前の通りをはさんだ向かいにある養源院に行けば、別の作品ですが、その宗達の傑作を見ることができます。

それは、白象と唐獅子が描かれた杉戸絵なのですが、お寺に残された真筆の作品、ホンモノの作品をいつでも見ることができるのです。