昨日、BARで
今回は、文が他の文の(修飾)成分になる「連体修飾」について考察したいと思います。「連体修飾」は、名詞を修飾する言葉ですね。
まず次の文を見てみて下さい。
Ⓐ昨日、BARでヒロシがきれいな女の子とお酒を飲んでいた。
昨日 飲んでいた
BARで 飲んでいた
ヒロシが 飲んでいた
きれいな女の子と 飲んでいた
お酒を 飲んでいた
このように、左に並べられた文の成分たちは基本的に右の述語「飲んでいた」を修飾することで「連用修飾成分」と呼ばれています。
ところが、この各成分の中にひとつだけ異質なものがあります。それが「きれいな」です。
そう、この「きれいな」という言葉は「飲んでいた」を修飾しているのではなく、あくまでも、「女の子」という名詞を修飾しているんです。
こうした名詞を修飾する成分は「連体修飾成分」と呼ばれ、直接述語を修飾する「連用修飾成分」とは全くレベルが異なります。
そして「きれいな女の子」に含まれる「きれいな」という連体修飾は、「指にルビーの指輪をはめているきれいな女の子」といったようにいくらでも付け足していくことが出来ます。
補足されればされるほど、読み手に対して、「女の子」の情報量はきめ細やかに増やされ示されていくことになるんです。
しかもその情報量はいくら増えても、「ヒロシが女の子と飲んでいた」という主節文に対して、なんら邪魔することはなく影響を及ばすこともないのです。あくまでも「女の子」に対してだけの情報なのですから。
Ⓑ昨日、BARでヒロシが指にルビーの指輪をはめているきれいな女の子とお酒を飲んでいた。
でもこれでは全然リズムが悪くて読みにくいので、次のように書き変えてみましょう。
Ⓒ昨日、指にルビーの指輪をはめているきれいな女の子とヒロシがBARでお酒を飲んでいた。
そう、語順としての頭でっかちの法則に従って、句読点のすぐ後、つまり文の書き出しや「、」のすぐ後に、長い連体修飾成分を配置することにより、朗読の流れをスムーズにすることが出来るんです。
実際に、ⒷとⒸを頭のなかで朗読してみて比較してもらえると、ハッキリとその違いに気づかれると思います。
Ⓒ昨日、 指にルビーの指輪をはめているきれいな女の子と ヒロシが BARで お酒を 飲んでいた。
前回の記事でご紹介した、川端康成や井伏鱒二が持つ一級のリズム感というのも、まさに自然に、この法則を見事になぞった文章構成が駆使されているとしか思えないのです。
この頭でっかちの法則をテキスト全体のなかに艶やかに散りばめた文体で文章を構築させていくさまがそこに読み取れるんですね。
もちろん彼たち自身は語順の法則なんていちいち意識して分析などしていなかったでしょうし、その一級のリズム感というのは、まさに、天から与えられた生まれついての才能であったことは間違いないのでしょう。