引き続き、今回も「のだ」に関連する名詞述語文を考察していきたいと思います。
名詞述語文には、「分裂文」と呼ばれる特殊な文が存在します。
動詞述語文や形容詞述語文を名詞述語文に変換させた表現なのですが、たとえば、
Ⓐ裕子が、トランペットを手に入れました。
という動詞述語文を
Ⓑトランペットを手に入れたのが、裕子でした。
という名詞述語文に変換させた文が「分裂文」と呼ばれるものです。
「トランペットを手に入れた」という動詞文に形式名詞「の」を付けて名詞化させ、述語名詞「裕子」に同定させたコピュラ文となっているんですね。
主語に当たる「裕子」を述語の位置に取り出し、それ以外の部分が主語に変えられて表現されています。
節が主語にされ、その節から特定の成分が取り出され述部に位置付けされているんです。
「裕子」という文の主格成分を本来の語順から分裂させているので「分裂文」と呼ばれているんですね。
前回の記事で、テキスト全体の核となるのはひとつの名詞述語文なのだと言い切りましたが、じつはその根拠というのは、この「分裂文」の概念のなかにひそんでいるんです。
たとえば、Ⓐの動詞述語文の場合は「裕子が」が「前提」となっていて、その答えとなる「手に入れた」が「焦点」になります。
読み手は必ず「焦点」を強く意識しますので、文の最後にくる述語がどうしても重要になってきます。
だからⒶの表現だと、読み手には「手に入れた」という内容がボンヤリと印象に残るだけなのですが、Ⓑの分裂文の場合は逆に、焦点が「裕子」になりますので、読み手の意識は「裕子」に強く注がれるんです。
抽象的な動詞や形容詞よりも、具体的な指示対象の名詞を最後に示されるほうが読み手の意識には強く残るんですね。
しかも、「のが」「のだ」というもともと「焦点」の職能を持つ言葉を前提として提示し、さらに、もう一度答えとしての指示対象を示す。
まさに、二重効果を及ぼすほどの伝達手段なんです。
そしてここまで「裕子」が強く主張されると、「裕子」に対する話題がこの後に続いて行くんだろうなと、読み手は自然に想定することになります。
なので逆に言えば、書き手は「裕子」に対しての話題を続けていくなら、そういった読み手の想定をくみとり、「分裂文」を最初にもってくることで効率よく文意を伝達することができるわけです。
通販番組なんかを見ていると、プレゼンテーターが「分裂文」で書かれた原稿を暗唱しているのを目にすることがよくあります。
Ⓒそこで今回ご紹介したいのが、この「マモルーム」なんです。
Ⓓそんなあなたに是非試していただきたいのが、この「コエンザイムQ10」。
「のが」という表現で意識をこちらに向けさせ、さらに後方焦点に指示対象を持ってくることで、この時点で一度、視聴者に商品を強く意識させる。
続くこの後の談話で、「マモルーム」や「コエンザイムQ10」の利用価値の説明をスムーズに、さらに続けていけるように構成されているんですね。
分裂文という構文で示されることによって、述語に提示された指示対象に対する聞き手の関心が高められ、その結果、それ以降の談話での重要な主題として意識されるようになるわけなんです。
私たち日本人は、この述語が全ての決定権を持つというこの日本語の仕組みがもう意識下に刷り込まれてしまっています。
だから、もっとも注目する述語部分に指示対象が位置付けられた名詞述語文がテキスト全体の中心文となるんですね。
Ⓔこの「マモルーム」を今回はご紹介したいと思います。
Ⓓこの「コエンザイムQ10」をあなたに是非試していただきたいのです。
というセールストークに、もし変えてしまったら、間違いなく売り上げは激減することになってしまうのでしょう。